入門編のラグビーにおける3つの「密集」で「ラック」とはタックルで選手が倒された後のボールの奪い合いだというお話をしました。
ラグビーを見ていて一番よく目にする密集ですので、ここでは具体的にあの場面において何をしているのかを解説します。
前回の倒れた選手はプレーしてはいけないでお話した通り、タックルを受けて倒されたプレイヤーは直ちにボールを後ろに置くなり倒れた状態からパスするなりしてボールを離さなければなりません(転がっていかないよう手で抑えるのはOKです)。
パスをした場合は味方がボールを生かしてくれますが、後ろに置いた場合はどうなるでしょうか。
このボールは地面に落ちているのと同じ扱い、すなわち相手が取っていいボールになります。
タックルで倒されたタイミングというのは選手が突撃した直後なので味方はまだ次の攻撃の準備ができていません。そのため、アタック側は次の攻撃の準備の時間を稼ぐためにこのボールを守る選手を配置することが許されています。これが「オーバー」です。
上の画像でボールの上にまたがるような形で立っている選手がオーバーに入った選手です。
オーバーという言葉は「オーバーがいない!」「もう1枚オーバーに行け!」というような使い方をします。フォローという言葉に近いですが、オーバーと呼ぶとボールを守る役だということがはっきりします。
さて、選手が倒されオーバーが立ちボールが守られたわけですが、ディフェンスの選手はこのオーバーを押し込むことでボールを奪いにいくことができます。
そしてオーバーの選手とボールを奪いにいった選手が接触して押し合いになった瞬間「ラック」が成立します。
ラックが成立するとどうなるかというと、ただボールが落ちている状態ではなくなり「ディフェンス側は押し合いに勝利するまでボールに干渉してはいけませんよ」という状態となります。つまり押し勝つまで手でボールを拾うことができなくなります。
余談ですが、オーバーの選手を押し込んで地面のボールよりも向こうに追いやることを越える(こえる)とも言います。ラグビーファンが「越えろ!」と叫んでいるのはこのことで「ボールを奪えるチャンスだぞ!相手のオーバーを押し込め!」という意味です。
相手のオーバーが少ない時、遅れている時は越えるチャンスです。
ディフェンス側の選手がタックルで倒された選手の持っているボールを直接奪いにいくプレーを「ジャッカル」と言います。
また、ジャッカルを受けたアタック側の選手は倒れている(プレー不可)ためボールを相手に取られるのを妨害してはいけません。しかし本来はプレーを続行してはいけないにも関わらずボールを離さないことがあります。この場合「ノットリリース・ザ・ボール」という反則となります。
なぜノットリリースとなるとわかっているにも関わらずボールを離さないのでしょうか?
答えは「基本的にその場で奪われるよりも反則になった方がマシ」だからです。
ジャッカルに入られた時というのは攻撃中なため、味方は当然攻撃の布陣をしいています。そしてそのタイミングで相手ボールになるとディフェンスがスカスカな上に裏のスペースも空いていてボールを奪った側は攻撃の選択肢が非常に広く、攻めやすい状態となります。
この状態で攻撃を仕掛けられるよりは一度ペナルティキックを蹴らせた上でしっかり防御の布陣をしいてディフェンスした方がいいということです。
ゴールを狙うキックで3点を失う場合もありますが、キックを狙えるようなエリアであればジャッカルからの攻撃を受けるとトライを取られる可能性も高いため、トライよりはマシと割り切って反則を選びます。
このようにノットリリース・ザ・ボールは反則をした側も反則となるとわかった上で自ら反則をとられる選択をしているため、「お前なに反則してるんだよ」という感じではなく、基本的にディフェンス側のナイスプレー、ナイスジャッカルです。
ジャッカルに入っていいのはタックルでアタックの選手が倒れた直後、かつ相手のオーバーが来る前になります。
オーバーが先に到着した場合は既にボールは守られているため、ボールを奪いたいときはオーバーの選手に突撃してラックを形成し、ボールを越えるまで押し込まなくてはなりません。
ジャッカルがオーバーよりも早く入った場合ですが、ジャッカルに入ったプレイヤーがボールに絡むことができていればジャッカルとオーバーが接触してもラックとはならず、そのままボールを奪おうとし続けてOKです。
先にジャッカルが成立していた場合地面に落ちていたボールを拾っただけなので何も悪いことはないからです。
しかしボールにしっかり絡むことができていない状態でオーバーの選手が来た場合はジャッカルが成立していないため、オーバーの選手とぶつかった瞬間にラックが形成されたという判定となり、押し合いに勝たなければいけない状態となります。
この場合はボールに少し手をかけていたとしてもその手を離さなければなりません。
この辺りは手を離さなければならない場合にレフェリーがボールから手を離すようジャッカルに入っている選手に伝えます。